トレンドの速さに合わせて、消費者の思考は一夜にして変わることで、企業生命はどんどんと短くなっています。企業ブランドと消費者から生まれるパワーダイナミクスの根底が変わり、愛着や信頼が得にくく、また失いやすくなっている。
ゴルフ業界においても、ゴルファー人口が増え、収益が上がりビジネスとしての成功を感じる一方で、ゴルファーとの人間的な絆が失われてしまっていると回答する調査結果があります。US-NGFによれば、ほとんどのコアゴルファーが自分自身は「ただの顧客」であり、ビジネス上の取引関係でしかないと感じてしまっているようです。本来のゴルフ業界が人間関係を重視するビジネスだという自負があるだけに、このパラドックスに直面している相互の断絶は深刻と言えます。
パラドックスとは、正しく見える前提や論理から、納得しがたい結論に行きついてしまう問題や現象を指します。ゴルフ業界に当てはめてみれば、そうなっていった経緯が見えてきます。ゴルフがクラブ中心の娯楽から、1000億ドル規模の産業へと発展するにつれ、より良い用具、より速いグリーン、より低いスコアなど、市場化が進み、比較販売できるようになったことで、商業化へと重点が移っていきました。目に見えるイノベーションで、ゴルファー人口を増加させ、ビジネスを成功させた一方で、最も重要な顧客との人間的交流という側面が影を潜めてしまったと言えます。
NGFの2022年の調査からも、人間関係の欠落を示唆した結果があります。有意義な人間関係を結んだと感じる経験や、自分の名前を知っているコースとの交流はほとんどないと答え、また、コース経営幹部の半分において、ゴルフ業界は、既存顧客との関係を維持し定着を促す施策が乏しく、他の業界と比較して遅れていると考えているそうです。 私たちの業界研究についても、長い間、技術的な優位性や製品の差別化を重要視して来ましたが、次の指標は、より人間的体験といった脆弱性を焦点に当てることで、次の不況や混乱に耐えられるよう体制を整えるべくアプローチに焦点を当てて行きたいと考えています。
現在のゴルフの人間的な関わりという側面からどうアプローチするかを考えたとき、
ゴルフ経営原論中の「余暇事業としてのゴルフビジネス」が参考になるのではないかと思います。
ゴルフが、ゴルファーにとって明日の気力や能力の充実を図る楽しい時間を求めるものだとするならば、
有益な時間を過ごすためにどのような場や空間が提供されるべきかを考える必要があります。
気軽に頻繁に行けること、
一人でも寛げること、
あまり干渉されないこと、
家族や友人を連れて行けること、
ゴルフをしない人も歓迎されること、
経済的に負担が軽いこと、
時間の制約が少ないこと、など
利用者の要望に耳を傾けることが始めの一歩につながります。
供給側の事業形態によって経営方針や経営内容は異なっていても、
余暇生活を潤し豊かにすることへの貢献が、
ビジネスの成功でありポリシーとして掲げられるべきだと言えます。
余暇ビジネスに携わることは、いつも顧客分析を繰り返し、
何が顧客満足を与えるかを研究し続けなければなりません。
そこには、昨今の人間関係にナーバスになり過ぎてしまっている私たちが、
ウェブ上での幻想的交流で終わらせるのではなく、人間的交流を再度構築することで、
失われたものを取り戻す機会につながることに期待したいと思います。
ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス
第五章 ビジネスポリシー
Section 3 余暇事業としてのゴルフビジネス
https://www.ngf-fe.co.jp/member/g/software/text/GB/GB_1_5-3.html
NGF FAR EAST
代表 宮田 万起子